RSS通信

まちサポくさつ (公財)草津市コミュニティ事業団

団体インタビュー

文字は大きく、心は細やかに。

拡大写本 てくてく草津

原本に近づけ

メンバー1  金曜・朝10時。草津市図書館の一室に集まる女性たち。今日は「拡大写本てくてく草津」の活動日です。
 それぞれが持参のパソコンと付箋でいっぱいの本を取り出し、いま手がけている拡大写本づくりの作業を始めます。
 こう言うと、黙々と続く作業、部屋にはキーボードのカタカタという音だけが響いていて…。なんて印象をもつかもしれません。いえいえ、あっちで相談しあったり、こっちで教えあったりと、なんとも和気あいあいとした空気。もう笑い声が絶えません。

 特に目立つのはベテランさんがまだ日の浅いメンバーに助言する姿。この拡大写本づくりは経験がモノをいうのだとか。
というのも、てくてく草津のモットーは「いかに原本に近づけ、読み手がより読みやすい拡大本をつくれるか」
 作者や出版元といった作り手側の意図を損なわず、その本が持っている魅力を忠実に読み手に届けること。
 文字を拡大すると頁も行数も増え、原本からレイアウトがズレていきます。すると挿絵や写真はどこに配置すべきか。行の折り返しはどこで行うか、特殊な文字や記号はどうすれば…。
メンバーの試行錯誤が続きます。

アイデアをフル回転

メンバー2  また、これらの難題をクリアしていくにはパソコンのスキルも求められます。お馴染みのワープロソフトを使っての製作ですが、ソフトがもつ機能もフル回転です。
 「じゃ、PC苦手な私には無理だな〜」って思ったあなた、大丈夫ですよ。だってメンバーの皆さんも始めたときは文字を打つぐらいの経験しかなかったのだとか。

 先輩メンバーに相談しながら「へぇ、こんなこともできるんだ~」とその都度、必要なスキルを身につけていきます。さながら互いに教えあうPC教室のよう。できなかったことができるって、何歳になってもワクワクしますね。

 こうして毎年、年間5冊のペースで図書館からリクエストのあった本の拡大写本を作製。今では図書館(本館)の一角にこれまでコツコツと作製してきた拡大写本がズラリと並びます。

はじまりは教科書

メンバー3  実はこの「てくてく草津」のスタートは弱視の子どもたちへの拡大教科書づくりでした。今から18年前(2004年)のことです。
 当時、市内の小中学校には弱視用の拡大教科書はなく、子どもはルーペで文字を追っていました。担当の先生たちも専門家に相談したり、あちこちから資料や情報を集めたりと、大変な苦労をされていたのだとか。

 そこで学校からの要望を受けた市の教育委員会は、拡大教科書づくりのボランティアを募集。広報を見た約10名の有志が集まり活動が始まりました。

一人ひとりの見え方

メンバー4  いざ集まってみたものの、もう、のっけから苦労の連続です。。そもそもメンバーには弱視の知識がありません。しかも一言に「弱視」といっても個人差があって、その子によって見え方は様々。視野が狭くなる子には、文字を大きくすることがかえって読みづらいことだってあります。
 その子にとって見えやすい文字の大きさは?書体は?色は?
本人・学校・専門家とも相談しながらの教科書づくりです。

 苦労は他にもあります。それはパソコンを使っての作業。と、いうのも当時の拡大教科書はどこも手書きのものが主流でした。つまり参考とするお手本がありません。
教科書をバラして1頁ずつスキャニングしてからの入力やレイアウト編集。特に文章と図の配置は難しくて理科や算数は悩みっぱなしだったとか。
 子どもが授業で使うものなので拡大により生じる頁のズレや表装・紙質まで違和感のない仕上がりが求められます。

リボンに込めて

拡大写本  こうして苦労の末に仕上がった初めての拡大教科書たち。始業式の日に、教科書にリボンをかけて子どもたちに手渡しました。教科書を胸に抱き嬉しそうな子どもたちの顔は今でも忘れられません。一人のお母さんがくれた感謝の手紙は宝物になりました。

 全国のボランティアによるこうした努力の積み重ねがやがて社会を動かしました。教科書会社がデータの提供を始め、その後、拡大教科書をも作成するようになったのです。
 こうしてボランティアによる拡大教科書づくりは役目を終えましたが、「せっかく積み重ねてきた努力と技術を活かしたい」と、今の拡大写本づくりへとつながっていきました。

てくてくと…

本棚  「拡大写本は図書館の中でなら読むことはできますが、著作権の問題があって、貸出は認定を受けている人に限られています。簡単な問題ではありませんが、視力が低下してきている高齢者などへも貸し出しできるようになって欲しいですね」
 てくてくとゆっくり歩んできた「てくてく草津」。今、次の5冊にとりかかりました。来春の完成をお楽しみに。






コミュニティくさつ132号 2022.7月
「リボンが、笑顔をむすぶ。」より

前のページに戻る