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まちサポくさつ (公財)草津市コミュニティ事業団

ゆっくり草津 街道物語

8.もののふの道 【長束散策】

寺というより城 芦浦観音寺

 この芦浦さん近く、観音寺ゆかりとも言われる阿弥陀如来や鐘楼堂の石垣がある金乗寺の歴史を感じさせる門をくぐり抜けたときに感じた視線は瓦の先に留められたウサギの留蓋でした。太陽が「火」とすれば月は「水」。月を連想させるウサギには火除けの意味が込められていると聞いたことを思い出しました。
 芦浦観音寺の東北、鬼門とされる地に守護神として建てられた神社は荒瀧神社です。以前の鳥居は大津市観音寺町にあったものを移したのだといわれています。若宮神社の飛地境内とされています。

秀吉五奉行 長束正家ゆかりの地

 さて長束をめざしさらに歩を進めると、そら豆・たまねぎ・とうもろこし・白や薄紫の花を付けたじゃがいも畑などなつかしい風景が広がります。街道歩きの一行は我が家流『新たまねぎのおいしい食べ方』をそれぞれ紹介しながら先へ進んでいきます。
 大将軍神社はそのいかめしい名のとおり、戦の神である経津主命(ふつぬしのみこと)がまつられており、芦浦の村の入り口に建ち、村に疫病が入り込まないよう見守っています。
 
 「長束」の地名はこの辺りを治めた長束一族が平安時代、比叡山の領地を束ねる長だったことが由来とのこと。今もこの地に7、8軒の長束姓があります。
 今、「長束老人憩いの家」として使用されている場所は、長束正家を弔うために建立された養国院があったといわれ、阿弥陀如来と長束正家の母(または息女)の位牌のみが残り、現在も地元の七人衆と呼ばれる人たちが守っています。
 この地の出身である長束正家は算術に優れ、秀吉五奉行の一人として活躍しました。太閤検地や朝鮮出兵の食料の手配・大阪城や聚楽第の資材管理・経理など事務方としての才能を発揮し、大蔵大輔まで務めた武将でしたが、関ヶ原の戦いで西軍につき追われました。
 正家が密かに秀吉をまつったとされる春日神社には木造の秀吉像があるといわれています。小さな神社ですが地元では「天神さん」と呼ばれ、2~3年に一度サンヤレ踊りが奉納されます。1502年に作られたという古い獅子頭は市の指定文化財で祭りなどの際に見ることができます。木々の新緑と黄金色に輝く麦畑、どこかなつかしさを憶える風景に出逢い、私たちの街道歩きはまだまだ続きます。

南北朝の息吹きを感じる

 専光寺に着きました。ここでは教育熱心だった先代の祖父が地域の子どもたちを集めて学問を説いたといわれています。教え子たちが先生の還暦に建てた石碑が向かいにあります。かわいい子どもたちが頭を抱える寺子屋の風景が思い浮かびますね。専光寺を後にすると、ここからは志那街道を琵琶湖に向って歩きます。
不犯山(おかさずのやま)大将軍神社は南北朝の戦いで、奥州の北畠顕家が上洛途中ここで軍を休ませ戦勝を祈願した地といわれ、この地をおかしてはならないとの言い伝えが残る場所です。
 「大蔵大輔長束正家候菩提跡」と刻まれた石碑が門の脇にあるのは阿弥陀寺です。正家の位牌があると伝えられ、昔は300坪の大蔵屋敷があったとか。今では無住となった寺と「大蔵」という小字名だけに名残をとどめています。

もののふの道 志那街道を琵琶湖へ

 志那街道は志那港がある志那、片岡、長束、横江、大門、金森、守山宿を結ぶ約7 。多くの武士たちがこの道を駆け抜け、志那港から坂本へ船で渡り、都へ向った「もののふの道」も今はのどかな田園風景が広がります。
 やがて印岐志呂神社の赤い鳥居が見えてきました。彼方に比叡山・比良の山並みがくっきりと浮かぶ姿を見ると「あの山を越えれば都だ」と武将たちが奮い立つ気持ちはいかほどだったのかと思いを馳せずにいられません。深い緑の森と大きく立派な赤い鳥居が対照的なこの地らしい心に残る風景もこう考えるとひとしおです。天皇即位の際にお米を献上される「ゆきしろ」から印岐志呂神社の名がついたと聞きます。近くには南北朝の戦いのひとつ印岐志呂の戦いで敗れた武士をまつった「一夜伏塚」があります。
 
木立に囲まれた若宮神社は芦浦観音寺の住職が朝夕の参拝のためにこの地に移したといわれ、元は印岐志呂神社にありました。風雨で削られた鳥居にあるかろうじて読み取れる文字からは1656年に建てられたことがわかります。
 そのお隣の安国寺跡では、鳥の声が響き渡る杜のなかにお地蔵さんがまつられています。安国寺とは足利尊氏が南北朝の戦いで亡くなった人の菩提を弔うため一国に一寺を建てたといわれ、近江ではこの地にありました。

 芦浦、長束、志那街道はまだまだなつかしい風景がたくさんあります。写真に収めたり、スケッチをするには絶好の散策コースです。今回は初夏の風を感じながら歩きましたが、また秋には豊かな実りを感じながら歩いてみたい街道です。

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