団体インタビュー
捨てればロス、つなげば希望
消費されない食品たち
品質に問題がないのに消費されない食品がある一方で、食べる物に困っている人がいる。なんとも不条理な話ですが現実です。この両極にある2つの問題をつなぎ、どちらも解消に向けていく活動がフードバンクです。話としてはシンプルですが、実際の運営となると大変です。
フードバンク滋賀の活動は週2回。まずは食品を集めることから始まります。スーパーやパン屋さんなど定期的に食品を提供してくれるお店に朝から手分けして引き取りに行きます。賞味・消費期限が近づいた野菜・果物・パンなどが中心なので、午後にはもう配らなくてはなりません。
また、個人の家庭からは缶詰・スナック菓子・シリアル・乾?などが、お寺さんや農家などからはお米が、企業からは非常用に備蓄されていた水など、ネットなどで活動を知った多くの人から提供いただきます。コロナの影響で、観光地で売られるはずだった土産品なんかもあったとか。
「スーパーなどでは印字ミスやパッケージの破損といった理由で市場に出せなかった食品を提供いただきます。もちろん食品自体に何の問題もありません。また、5本入りの茄子の袋があって、たまたま1本だけが傷んでいても、これまた店頭には出せません。その1本だけを入れ替えればとも思いますが、かえって手間がかかるし、処分するにもコストがかかります。こうした食品が私たちのもとに届きます」
見えにくい問題
食品が集められると、いよいよ配達です。食品を届ける家庭は湖南地域を中心に、なんと彦根や長浜までと広範囲にわたるとか。一軒分ずつ小分けするのかと思いきや、引き取りに行った車から配達車に直接積み替えます。「大根あるよ」「○○さんの好物だからもらっていく」「パン、そっちまだ残ってる?」手際よい作業と情報交換。気づけば、どの車も後部座席だけでは収まらず助手席まで食品が埋めつくしています。すぐにそれぞれが担当する家庭へと向かいました。そう、時間との闘いでもあるのです。
「今の届け先は約60世帯。これを水・土曜に分けて週に一回、3?4人のメンバーが自家用車で届けます。食べるものにも困ってしまう状況の皆さんですから、一軒一軒が特別な事情を抱えています。貧困・雇止め・DV…。理由は様々ですが、どれもデリケートで深い部分に入り込んでしまう問題で、表には見えてき
ません。身近な人であっても、なかなか気づくのは難しいでしょう。きっと食糧の支援を必要としている人たちはまだまだおられるはずです」と中村さん。
では今、支援を受けている人たちは、この活動をどのように知ったのでしょう。「SNSなどで私たちの活動を知って直接連絡をくれる人があります。あとは社会福祉協議会や相談されている法律事務所などからの紹介も多いですね。どの方も、我慢に我慢を重ねたギリギリの生活で、ここにたどりつかれます」
私、卒業します
「それでも、依頼があればすぐに支援を始めるわけではありません。電話で事情を聞き、まずは一度だけお届けします。実際にお会いし、暮らしぶりを確認してから支援を継続するかどうかの判断をします。夫の暴力が原因で対人恐怖症になった女性がいました。彼女は深く心を閉ざし、お伺いしても会話らしい会話はありません。私たちも事情を知っているので食品を黙々と届けるだけ。彼女が自ら話しかけてくれるまで1年かかりました」
施設や子ども食堂などに食品を届けるフードバンクの団体もありますが、フードバンク滋賀は一軒一軒、家庭を訪問しての手渡しです。それは、施設に行く力すらない人や「助けて」と声を上げられない人を支援したいとの思いから。訪問時の会話や生活ぶりから、必要があれば医療につないだり、届けた際に引越しや子どもの進路など込み入った相談を受けることもあるとか。手渡すことでさりげない見守り
になっているのですね。
「ようやく働く先が決まりました。やっと支援から卒業できそうです」。利用者が今の状況から脱して自分の力で生活できる“卒業宣言”をしてくれた時が何よりうれしいと中村さん。食べ物はまさに生きる力、明日への糧。
フードバンク滋賀は食品を届けながら「あなたをいつも見守っています」と今日もエールを送ります。