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まちサポくさつ (公財)草津市コミュニティ事業団

団体インタビュー

世界に一つだけ、私の石けん 滋賀の農産物のオリジナル石けんづくり

中村大輔さん(渋川小教諭) 杉江香代子さん(Seisui かよこの石けん)

秋のヒマワリ

ひまわりの種採取  残暑が残る9月中旬。不動浜(山田学区)の休耕田に渋川小の6年生がやってきました。この夏、ここで多くの人の目を楽しませてくれたヒマワリたちは自分の役目を終えたかのように、枯れて頭を垂れています。
 そう、子どもたちは石けんづくりに必要な油を搾るため、ヒマワリのタネを取りに来たのです。

 このヒマワリを大切に育ててくれた「不動浜ふるさと環境を守る会」や地元の皆さんの指導のもと、自分の背丈よりも高いヒマワリの頭部(頭花)をハサミで切っていきます。台風や鳥に先を越されたりして、種の詰まり具合が寂しいものもありますが、自分の顔よりも大きな頭花に子どもたちは大盛り上がり。

郷土を学ぶ 体験する

中村先生  「渋川小の6年生はこれまで、滋賀県が世界農業遺産を目指していることに併せて、滋賀の郷土料理や農業について体験しながら学んできました。新型コロナが世界的な感染拡大をみせる中、子どもたち自身がこれまでの学習を通して考えたのが、今回の石けんづくりです」と中村先生。

 でも、なぜヒマワリ?
 「実はこの学年は3年生の授業で、ヒマワリから油が取れることを知りました。その時は搾る機械がなくて残念な思いをしていたのです。子どもたちにとっては念願のひまわり油です」。なるほど。

苦労の先

授業の様子  種の次は油を搾る道具が必要です。江戸時代式の搾り機が甲賀市に残っていることを知り、トラックで学校まで運んで宮大工さんの指導で組み立てました。いざ搾ってみると油は出てきません。それでも子どもたちは簡単にはあきらめません。なにせ念願のひまわり油です。

 「どうすればヒマワリの油が搾れるのか」を調べ、菜種油を生産している東近江市の施設から手動の搾り機を借りてきました。これまた、子どもの力では油はあまり出ず、先生たちをしても数滴落ちる程度。これではとても石けんはつくれません。

 最後は滋賀県立大学の電動搾り機でようやく油を搾ることができました。ところが、8時間もかけて搾った油は真っ黒で、やっぱりこのままでは使えない。油の精製が必要だったのです。県立大学の先生に精製方法を教わりました。

こうしてできた油は、5kgもあった種からわずか500ml。それでも琥珀色したきれいな油を見たとき、子どもたちからは歓声と拍手が湧き起りました。その苦労を知っているからこその歓声。
 もう、子どもたちのワクワクが止まりません。

私の石けん

石けんづくり  いよいよ石けんをつくります。ボウルにビーカー、薬品のビン、泡だて器、温度計…理科の実験か、調理実習なのか、といった光景です。
 石けんづくりの指導は杉江香代子さんです。石けんは例のひまわり油を含む数種類の油、水、水酸化ナトリウム、香料などを配合して作ります。
 まず、温めたオイルに水酸化ナトリウムと水を入れ水溶液を作ります。この作業は化学反応で高温となるので、杉江さんや先生で行い、子どもたちは別室からオンライン映像で見守ります。

 水溶液の温度が下がってくるのを見計らって、ひまわり油や香料などを入れ、子どもたちが順番にひたすらかきまぜます。上手く混ざるかどうかはこの作業にかかっているので、子どもたちも一生懸命に泡だて器を回します。
 まだトロっとした液体のままの石けんを牛乳パックに流し入れました。あとは毛布などで保温しながら1か月も経つと、子どもたちの世界に一つだけの石けんができあがります。

杉江香代子さん  杉江さんは言います。「自分たちで調べたり探したりして、失敗してもそこから学ぼうとする子どもたちのパワーに心打たれました。私もちゃんと伝えなければと気が引き締まります。石けんができた時の子どもたちの歓声や反応を見て、この授業に関われて本当に良かったと思いました。子どもたちは家でもこの授業の話をしてくれているみたいで嬉しいですね。これでおしまいでなく、学んでくれたことを覚えていてほしいし、どこかで活かして欲しいですね」

めざせ 農業遺産

 できあがった石けんを前に、子どもたちはこれまでの体験やサポートしてくれた大人たちとの交流を振り返りながら、オリジナル石けんのアピールポイントを考えていました。

 実は11月に三重県への修学旅行で、この石けんをお土産に滋賀の農業遺産をPRし、逆に三重県の農業遺産を学ぶのだとか。郷土に学び、郷土に誇りを持つ授業。何よりコロナ禍でも目を輝かせ学ぶ子どもたちの姿が印象的。大人になった君たちに早く会いたい。


コミュニティくさつ126号 2020.12月
「若者よ、未来をひらけ。」より

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