団体インタビュー
あの曲が流れていたころ♪ 「蓄音機コンサート」音竹(おんたけ)さん
偶然の出会い
竹谷さんは現在70歳。5年前に仕事を退職しました。「これからどうしようか」漠然と思いながら金沢を旅行した時のこと。たまたま立ち寄った蓄音機の博物館で聴いた音に衝撃を受けたのだとか。
「心が震えました。衝撃でしたね。もともとオーディオが好きで、家でもよくレコードを聴いていました。電気系の技術職だったから、アンプやスピーカーにもこだわったりしてね。
でも蓄音機から流れる音は今まで聴いたものとは全く別モノでした。蓄音機はレコードから振動を取り出し、増幅させながら直接、音を発生させます。アンプやスピーカーで機械的に増幅させるものとは全く別の世界です。歌い手の息遣いまで届いてくるような柔らかい音、全く新しい音に出会った気がしました」
蓄音機に魅せられて
蓄音機の音に魅せられた竹谷さん。「自分もやってみたい」と蓄音機をネットで購入し、音源となるレコード盤の収集も始めました。蓄音機で使うレコード盤はSPレコードといいます。アームを含めると150~200gの重さが針の先にかかるので、それに耐えられるよう、いわゆるLP盤よりも固い材質でできています。
また、回転数にも違いがあって蓄音機の回転はLP盤よりも早くなります。硬い盤を早い回転数で削るので、針は通常、一曲ごとに交換です。SPレコードは主にネットで購入ですが、取り扱う店を見つけたら京都や大阪でも出向きます。
大阪にある「SPレコード同好会」にも入りました。ここではシャンソン・タンゴ・ラテンなどジャンルごとに、自分のおススメを6~7曲披露し合います。
「披露するためには曲が作られた背景なども調べて資料もつくります。貴重な情報交換の場だし、知らないジャンルの世界を教えてもらえるので知識の幅がグッと広がります」
自分だけじゃもったいない
こうして様々なジャンルから集めたレコード盤は、いつしか1500枚にもなっていました。盤にはAB面があるので3000曲以上になります。気になるレコードを見つけては、目録を整理して、蓄音機で生の音を楽しむ毎日。
ところが、です。蓄音機は定年後の日常に張りをもたせてくれる趣味にはなりましたが、次第に「自分で楽しむだけではもったいない」と思うようになったのだとか。
そこで竹谷さんのお母さんがお世話になっている高齢者施設に蓄音機を持参し、音楽会を始めました。蓄音機という個人の趣味から、他の人にも喜んでもらえる活動へと進化したのです。蓄音機コンサート「音竹さん」の誕生です。
「ただ聴いてくれるだけでなく、反応があるのが嬉しいですね。曲によっては蓄音機の音に映像を重ねたりするのですが、スクリーンを指差しながら思い出話をされたり、一緒に口ずさんだり、その曲が生まれた背景やエピソードを紹介すると大きく頷いてくれます。
こうなると、こちらもリクエストに応えたくなるんですよね。江利チエミ、フランク永井、ザ・ピーナッツから邦楽・洋楽・浪花節…と、いろいろ揃えて今では2500枚になりました。
音楽は聴く人の当時の思い出とセットになることが多いから、当時の記憶が蘇るんでしょうね。音楽は人を元気づける力があることを、しみじみ感じます」
人生の音を届ける
旅行先で偶然出会った蓄音機は、竹谷さんの退職後の人生を色濃く変えました。そして、個人の趣味に留まることなく「音竹さん」としての活動を通じて、多くの人に温もりある音と、大切な思い出を届けてくれています。人生の奥深さや妙味を感じますね。
今、竹谷さんの自宅には5台の蓄音機があります。ゼンマイ式の蓄音機はその日その日で調子がちがい、それぞれのご機嫌を確かめながら今日の1台を決めるのだとか。
ボタン一つ、指先一つで好きな音楽を聴ける時代に、手間ひまかけて1曲に耳を傾け、その喜びを周りの人と分かち合う、なんともぜいたくな時間をご堪能あれ。
回転数…一分間の回転数はSP盤78回転、LP盤33回転、EP盤45回転。
コミュニティくさつ127号 2021.3月
「“まち”とつながる。私の場合。」より