団体インタビュー
定年後のきのこ博士 ロクハ公園「きのこウォッチング」
山が教えてくれた変化
ロクハ公園には人気のプログラムがあります。ロクハの自然を満喫しながら樹木や野鳥、きのこなどを専門家の解説を聞きながら観察するウォッチングシリーズ。
この観察会で、身近にありながら意外に知らないきのこの生態や不思議について教えてくれるのが、「草津のきのこ博士」土佐洋志さんです。さぞや、元は学者さんかと思いきや、化学品メーカーの技術者だったとか。
仕事をしている頃、時間に追われる忙しい毎日の中での楽しみと言えば、山登り。
「学生のころからよく山登りをしていました。毎年のように冬の比良山にも登りました。定年前だからかれこれ20年くらい前からでしょうか、自然環境の変化を感じ出したのは。『なんか、おかしい』と思いました。積もっているはずの雪がない、桜の開花が早い、モミジの紅葉が遅い、鹿などの野生動物をよく見かけるって、こんな類の違和感です」
「当時はスマホなんかない時代ですから、歩いたルート・時間・天気や目にした植物の様子など、こと細かくメモしているので、それを読み返すと自然の緩やかな変化もみえてきます」
あの木もこの木も…
山から自然の変化を感じとった土佐さん。退職後には大阪の「NPOシニア自然大学校」に入りました。ここで地球環境から鉱物・動物・植物、昆虫といった様々な自然科学の分野まで、講座やフィールドワークで一年間かけて学び、卒業後もサークル活動として自然観察会や講座に参加するようになりました。
こうした学びの中で、きのこの魅力に惹きつけられたのだとか。
「きのこの魅力はすべての樹木と共生しているところ。あの木もこの木もきのこのおかげで生きていけるんです。たとえそこに、きのこが見当たらなくてもね。きのこといえばスーパーで見かける形のものを思い浮かべますが、実は菌糸自体はいつも土や枯れ木の中にたくさんいます。樹木と養分をやりとりしながら共生しているのもきのこ、枯れ木や落ちた葉を分解して土に還しているのもきのこなんです」
なるほど、きのこはおいしく食べるだけじゃないんですねぇ。叱られそうです…。
こうしてきのこに惹かれた土佐さんは、その後もきのこの学会や観察会に積極的に出向くようになりました。
3人の自然博士
土佐さんは先のNPOの地方組織である「京(みやこ)とおうみ自然文化クラブ」にも参加しています。ここには土佐さんを含め、草津在住者が3人いました。きのこに魅せられた土佐さんに対し、一人は樹木、一人は野鳥を専門としていました。いつしか3人の自然博士は「いま住んでいるこの草津に恩返しができないかな」と話すようになったとか。
そんなころ、3人はロクハ公園で目にした看板に驚かされました。ロクハの森での自然とのふれあいを呼びかけた看板に描かれていたのが樹木・野鳥、そしてきのこだったのですそのまま事務所のドアをノックしました。こうして、ロクハ公園の人気プログラム「ウォッチングシリーズ」が始まったのです。
「きのこウォッチングでは事前に園内を歩いてみてコースや説明するきのこの話を決めていますが、当日の朝の様子でコースを変更することもあります。なにせ生き物ですから刻々と変化していきます。朝早い時間に見てほしいきのこもあるからね」
土佐さんは続けます。「子どもから大人まで参加してくれるのが嬉しいですね。観察会で園内を歩くと、子どもは図鑑の写真と同じきのこを見つけると目を輝かせます。子どもは大人が気づかないものまで見つけるので、こちらもきちんと答えるようにしています。子どもたちに必ず伝えるのは『きのこは樹木と助け合いながら仲良く生きているんだよ』ということですね」
社会とつながるヒント
観察会を始めてからの感想が印象的でした。「当然ですが観察会にはそのテーマに興味をもつ人が集まってくれます。共通の興味というベースがあるので、いつもワイワイと楽しいです。LINEを交換したり、仲間になった人たちもたくさんいると聞きます。私も教えるというより、仲間が広がるという感じです。自分の視野を広げたり、仲間をつくりたいと思ったら、観察会は良いチャンスかも知れません」
楽しく生きる、興味のあることで社会とつながるヒントが土佐さんの話から見えてきます。そうそう、土佐さんは自然の中に生えるきのこは食べませんが、栽培されたきのこを食べるのは大好きなんだとか。念のため。
コミュニティくさつ128号 2021.7月
「自然生活、はじめました。」より