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まちサポくさつ (公財)草津市コミュニティ事業団

団体インタビュー

ショッピングセンターいとや

北川栄さん・富美代さん (草津市片岡町)

まちを見守り100年

 常盤は今でもこんな「ご近所さんの触れ合い」が生まれる「いとや」さんというお店があります。入るとすぐに所狭しと並ぶ祝儀袋が目につきます。今となっては懐かしいアイスクリームの冷凍庫に業者さんが直接商品を入れています。この「いとや」さん、なんと創業は明治29年。もうこの地で約110年の商いとなりました。販売許可を認める「鑑札」を見せてくれたのは4代目となる北川栄さん・富美代さんご夫妻。お二人に片岡のまちの移り変わりを見守り続けた「いとや」のお話をお聞きしました。
元々この辺りは浜で、下物・津田江・志那の漁港が近くにありました。漁師さんが使う網の糸や和裁の糸を買い求める人がたくさんいて、そんな糸を主に販売するお店として開業しました。だから「いとや」です。まだ既成の洋服が普及する前の話ですね。食料品もそのころから置いています。まだ砂糖や油が配給されていた時代、木箱に入った黒砂糖をスコップで「ガシガシッ」と崩しては量り売りをしていたと栄さんは話します。

コンビニには無い物がここにある

 この店の特徴、それは店に置くものから売り方の工夫まで徹底的に地元の暮らしぶりに合っていることでしょう。地元の人にとって、ここに来れば日々の暮らしに必要な物から、地域の取り組みに必要な物まで、ほとんど揃います。店内に見あたらない物だって、言えば探してくれます。それはずっと地元と一緒に歩んできた店のこと、「こだわり」というよりは、ごくごく自然の流れです。地元の人たちも「あそこにはコンビニにない物が置いてるから」と「いとや」に足を運ぶ理由を教えてくれました。
「地域に必要でコンビニに置いてないもの?」たとえば前述の金封。まだまだ昔ながらの風習やつながりが色濃く残る地域ですから、金封や祝儀袋は色々な種類、宗派のものが並んでいます。「これでも絞り込んでる方で、上の倉庫にあと3倍はあるんですよ。」と栄さん。他にも地域の行事・冠婚葬祭・風習などで使われる、しゅろ縄・よしず・和ろうそく・神社の手水のひしゃく、左義長で使うわら縄、上棟でお札を棟木につける麻緒(あさお)なども置かれています。どれも近くのコンビニにはないもの、あっても種類がそろわない物ばかり。もうここまで来ると食料品店の枠を超えています。考えようによっては、これこそ地元限定のコンビニかも知れませんね。
 栄さんの話では、以前は地元のおばあさんたちが作ったわら草履なんかも扱ってたそうです。地域で出たものを地域で加工して地域で売り買いする。地域での循環にお店が一役買っていたんですね。

見守りから生まれる「あ・うんの呼吸」

 店に置いてある惣菜は高齢者でも食べきれる少量サイズ。これが示す通り、お客さんの層は子どもと高齢者が中心です。「常盤でも今や車が一家に1台どころか一人1台の時代。働き盛りの人は車でスーパーやコンビニに行きますもんね。うちみたいな店も近くに何軒かあったけど、みななくなったな」栄さんは言います。この辺りは独居老人が多く、出歩くことができる人は良いが、それもできずに家に籠ってしまう高齢者が心配なところです。でもそこは地域に根づいた店。もう出歩くことも困難になった高齢者は食料品や持つことができない大きな物を電話で注文します。「もうちょっとしたら、持って行くわな」と空いた時間に配達します。そこには時間指定も配送料もありません。いつも顔を合わせ気心が知れた仲だからこそ生まれる「あ・うんの呼吸」とでもいうのでしょうか。
 「配達に行って玄関や勝手口で顔を見ながら話をするんです。ちょっと耳を傾けるだけでも高齢者って喜んでくれます。それがうれしいし、元気な顔を見ると私たちも安心できます」と富美子さん。
地元の人がたばこを買いに来たら何も言わなくても、いつもの銘柄がカウンターに出されます。コンビニの「ピッ、○○円になります」といったやりとりなんてありません。どちらかというと少なめの会話。でも売る人と買う人の間には「お互いのことを知りあっている」信頼感、あたたかい空気があります。

初めてのお使い

 子どもたちの様子はどうでしょう。「この辺の子なら大体どこの子かわかります。おじいさんやおばあさんに連れられて来てくれると『○○さんとこの子か。』って感じで自然と覚えていきますね。それもその子がここに住んでいるまでで、学校や仕事でここを離れると分かりません。昔はみな、なんとなくわかっていたんですがねぇ」
 近くにある幼稚園では買物体験というのがあって、園児たちが自分で作った財布に100円を入れグループになってお店に来ることがあります。だからお店には子どもが駄菓子を入れるための小さなバケツが用意されています。「一目散にバケツ目がけて走ってくる子、あれこれ迷っている子、先生と計算しながら買う子…一人ひとり見ているとかわいくてね。こっちも『これで90円やで。もう一個買う?もうやめとく?』なんて言ってます」と富美代さん。駄菓子コーナーに目をやると、白い大きめの紙に、マジックで「50円」とか「30円」とか書いています。手書きの値札の前で、子どもたちが「う~ん」って考えている姿を想像すると、微笑ましくて思わず笑顔になりますね。初めての買物を地元のお店で経験することで、その子はこのお店なら安心して買物ができるし、親も安心してお使いに出せます。こうやってお店が地域の人に大切にされ、お店も地域に還していく。そんな素敵な関係を築いていった結果が創業約110年ということに納得でした。
取材:2010年10月

ショッピングセンター いとや本店
草津市片岡町566-3
電話(077)568-0008

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