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まちサポくさつ (公財)草津市コミュニティ事業団

団体インタビュー

昭和9年室戸台風 山田小学校倒壊

馬場實さん 加藤みよさん

いつもの朝

 当時の山田小学校は現在の山田市民センターのあたりにありました。木造の平屋建てで、2つの校舎を廊下でつなぐ片仮名の「エ」の形です。ここで、2年生までは男女同じ教室、3年生からは男女別の教室で学んでいました。子どもたちは絣の着物・もんぺ姿に下駄履きといったいでたちで、荷物は風呂敷に包んで登校していた時代です。
 その日の朝は夜明けからの雨風がさらに強く、子どもたちは持っていた和傘を飛ばされないように、半分閉じながらの登校でした。雨風が強い以外はいつもと同じ朝だったのです。
 ひどい雨のため朝礼は職員室横の少し広い廊下で出欠のみを確認し、各自、教室に入りました。こうして授業は始まったものの、やがて窓の向こうでは、はがれた瓦や傘、木の葉などいろいろな物が飛び散りはじめ、そのうち教室のガラスが割れ、悲鳴をあげたり泣き出す子も。もう授業どころではありません。その恐ろしさから、外に逃げようとする子など異様なざわめきとなりました。

奪われた命 生かされた命

倒壊した山田小学校  そんな中、校長先生がよろめきながら廊下を走ってきました。「外に逃げたら危ない。机の下に隠れなさい」と怒鳴っています。校舎の揺れを感じ机の下に潜り込んだその時でした。埃が舞い落ち、「バリバリッ」と大きく不気味な音をたてて目の前が真っ暗になりました。「何が何だかわからなくなった」と馬場さんは言います。次に気がついた時には倒壊した校舎の材木の上に座っている自分がいました。馬場さんは奇跡的に怪我ひとつなかったのですが、周りを見渡すと頭の皮がむけ血を流している子や下駄箱に挟まれて動けず泣いている子など、傷ついた子とうめき声でいっぱいでした。

 「そのとき」の加藤さんです。加藤さんは誰かの「危ない」という声で廊下に逃げました。出た廊下は波打っていて、加藤さんともう一人の生徒は倒れてしまいました。倒れた2人を守るように先生が覆いかぶさりました。そして先生の背中に校舎の梁が落ちてきたのです。
 一番最後に救出されたのが加藤さんと先生でした。加藤さんは3日間、意識を失い、その後3カ月間の入院となったのです。そして先生は…。加藤さんと同じ病棟に入院されましたが1年後に亡くなられました。この先生が、この惨事で亡くなられた田中儀三郎先生です。希望を持ってこの9月に赴任されたばかりの新任の先生でした。加藤さんは「今でも命の恩人だと思っています」と話されます。

 (写真)倒壊した山田小学校。2棟あった校舎のうち、新しい方が完全に倒壊した。
       草津市史資料集5「ずっとKUSATSU(歴史写真集)」より

大切なこと…それは伝え続けること

馬場さん  生かされた命。「山田小学校を襲ったこの災害を風化させてはいけない。尊い犠牲があった歴史のうえに現在のわたしたちの生活があることを決して忘れてはいけない」と馬場さんも加藤さんも話されます。そして、この経験をした多くの人たちが、今も子どもたちにこのときのことを伝え続けています。

 災害は時も人も選びません。お二人の話からは、「予告なき災害」を甘く見ず、日ごろからの備えをしておくことの大切さをあらためて感じます。そして、こうした先人の苦労や知恵を、私たちの暮らしに活かしながら皆で被害の少ないまちにしていくこと、多くの教訓を将来に伝えていくことが大切なのだと知る機会となりました。(大石昇)

 ※この惨事を体験された馬場實さん(当時、小4)と、加藤みよさん(当時、小3)にお話をうかがいました。
 ※この記事はお二人への取材の他に、「山田小学校百年誌(昭和 年発行)」に掲載されている体験談を一部引用または参照して編集構成しています。

山田小学校倒壊 もうひとつの物語 命の木(欅)

 現在、山田小学校と山田市民センターに「命の木」として、大きく切り取られた欅の木が展示されています。

 この木は風雨の吹き荒れる中を上級生が、この欅に綱をくくりつけて下級生にもたせ、身を守ったと言われています。倒壊した旧山田小学校は、現在の山田市民センター、山田幼稚園の場所にあり、山田公民館(市民センターの前身)建設の際、この欅は切り取られましたが、当時のできごとと防災の大切さを後世に語り継ぐため、末永く保存されることとなりました。

 今でも山田小学校では、毎月21日を慰霊の日とし、グラウンドの隅にある慰霊碑に生徒たちが花を供えます。また9月21日には殉難慰霊祭を行い、当時の被災者のお話を聞き、命の大切さと亡くなられた方の冥福を祈ります。
 山田の地に残された2つの「命の木」は、時を越え私たちに自然の脅威と命の尊さを教えています。

 -本誌(2004年夏号)より再掲-

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