団体インタビュー
その森には“三匹のおっさん”がいた
「ぼうけんむら」をつくる
ここはロクハ公園近く、「さくら坂保育園」の裏山。土手に垂れ下がった一本のロープ、階段のついていないツリーハウス、木の枝を三角に組んだ秘密基地…。「ぼうけんむら」と名づけられたこの森で、子どもたちはどんな笑顔を見せてくれるのか。いやいや私たち大人だってワクワクするそんな森。
実はこの「ぼうけんむら」。わずか1年前は木々がうっそうと茂る暗い森でした。持ち主である保育園の保育士さんたちも「森とは暗いもの」と思っていました。そんな時、松がマツクイムシの被害にあいだし、太田園長が3人の一人、波多野 衛さんに相談を持ち掛けたのが始まりです。波多野さんのお孫さんが保育園の卒園児という縁でした。
波多野さんはNPO法人「森の風音」のメンバーとして、別の森でも手入れをしていたこともあり、同じメンバーの宮本真一さんと水野光治さんに声をかけ、少しずつ手入れしながら園児が遊べる里山へと変わっていきました。
3人は木を切り、切った木から遊び道具をこしらえ、植えた苗が花を咲かせる。3人は仲間ですが、それぞれの持ち味で動きます。この森での3人のルールは「自由」。何時から何時までという決まりもなく、強制もありません。時間を示し合わせて集まるのは大きな木を切り倒すときぐらい。
3人とも空いている時間が1時間でもあると「ぼうけんむら」に来て作業をするので、顔を合わせることもなく帰ることだってしばしば。ルールは自由でも、3人の息はぴったり。「森の風音」の活動から学んだ数多くの経験が「ぼうけんむら」で活かされています。そんな3人に聞いてみました。活動のこと、退職後の楽しみ方のコツを。
退職してからの出会い
ひとりで鍋をつつくことも
宮本真一さん
とにかく、じっとしていることが嫌いな性格。好きな時に来て、好きな作業をするここの自由さが自分に合ってる。でも足しげく来るもんだから、妻に「自分の孫をみないで、よその孫をみてる」なんて言われていますけどね(笑)。
ここでは、自分が子どものころに遊びの中でした体験を子どもたちにもして欲しいなぁと思って作業しています。今は何かあるとすぐに大人の責任が問われますよね。でも子どもは少しのケガや失敗をしながら注意すべきところを自分で気づいていくもの。大人も叱るべきところは他人の子であっても叱るものなんて思っています。
ここへ来て作業後に、独りで鍋をつくってつつくこともあります。自己満足ですが、それがいいんです。ここは私の癒しの場所です。
すべて大人がやりきらない大切さを教えてもらう
波多野衛さん
私は自然に囲まれて育ちました。夏は川で遊んだり、秋は山で栗を拾ったり…。だからここでの活動は子どものころに戻ったようです。今の子どもたちにはこんな遊び場や木々に触れる体験がとても大切だと思っています。園児たちはここで自分なりに知恵を出して工夫します。時にはちょっとした失敗も。それは危険回避も含めて大人になってからの人間力につながると思うんですよ。電車に乗るとね、通勤している大人たちの顔がみんな辛そうなんです。精神的に余裕がないんでしょうね。可哀そうです。子どもたちにはぜひ人間力をつけてもらいたいのです。
私たちの作業はそんな子どもの人間力を養うよう心掛けています。たとえば骨組みだけつくって、そばに木切れを積んどくでしょ。子どもたちはそれらを建てかけて基地にしてしまう。コナラやクヌギの原木に穴をあけておくとシイタケ菌を詰める。ツリーハウスもあえて階段をつくらない。子どもたちは端の杭や横の立木に足をかけたりして何とか登ろうとする。完璧に用意するのでなく、子どもたちが工夫する部分を残しておく。すると子どもたちも自分でつくった気になり達成感があるようです。すべて大人がやりきらない大切さをここの子どもたちから教えられます。
ここを卒園した孫には「わたしが園にいるうちにこの遊び場をつくってほしかったな」と言われてしまいました。「ぼうけんむら」づくりの活動は今は3人ですが、園児のおじいちゃんを見かけると「一緒にしませんか」なんて声をかけています。