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まちサポくさつ (公財)草津市コミュニティ事業団

団体インタビュー

夢街道「あいさつ通り」の軌跡と奇跡 家庭が変わる!学校が変わる!まちが変わる!

草川邦章さん(夢街道「あいさつ通り」推進友の会 会長)中谷仁彦さん(老上中学校長)

これではいかん ほっておけん

夢街道1  長い教員時代を老上小学校長で終えた草川さんが、老上公民館(現:市民センター)の館長になったのは平成2年のこと。このころの老上学区は南草津駅の開設を目前に控え、新興住宅地の住民が60%を超え、小学校も児童数が1200名を超えるマンモス校となるなど急激な人口増加の時期を迎えていました。
 
 周辺の環境が大きく様変わりする時代を教員と公民館長の立場で見つめ続けた草川さんは、まちに住む人たちの微妙な変化に気づきました。行きかう人々がお互いに挨拶を交わす光景も見えず、コミュニティを育む場である公民館に出入りする住民の大半は新しい住民の人たち、昔ながらの住民との交流もどこかぎこちない。
 
 中学校では生徒の服装は乱れるだけでなく、授業の邪魔をする生徒もいます。人が増えることで人に与える変化、それは本当に微妙なものでしたが自身も住民である老上のまちが着実に殺伐とした町に向いているように感じたのです。「これではいかん!ほっておいたら『心の渇いたまち』になってしまう」との危機感に駆りたてられました。

涙もんの5年間

夢街道2  公民館長だった草川さん、公民館で高齢者を対象とした「やすらぎ学級」に在籍していた皆さんを中心に声をかけ始めて生まれたのが「夢街道あいさつ通り」の活動です。スーパーから公民館を経て中学校へと向かう800mの道のりを「夢街道あいさつ通り」と名づけ、8のつく日に立って挨拶運動をします。「開会式」ならぬ「開通式」は平成5年12月12日。草川さんの思いが通じたのか、人が人を呼び会員証をもった人はなんと1350人にも上りました。
 
 順調な滑り出しのように見えた活動ですが、「そうはうまくいきません。旧住民からは『挨拶なんて当たり前のことを大層に…ええかっこするな』って言われるし、声かけた高校生には凄まれるし、ポケットティッシュを配ったときなんかは放り投げる学生もいました。地元には足を引っ張られ、子どもたちの反応は良くないし。5年間は涙もんでした。」と当時を振り返る草川さん。

挨拶が中学校を変えた

夢街道3  涙ぐましい日々を支えたのは「子どもたちや住民同士が支えあい、信頼しあえる気持ち、つながりを育むことが今、必要なんだ。その基本こそ挨拶なんだ」という強い気持ちと、その気持ちを分かち合える仲間たちでした。お互いに励ましあいながら継続することで活動は広がりと地域内外での認知につながりました。
17年という息の長い活動へと成長した「夢街道あいさつ通り」ですが、草川さんの視線は子どもたちだけでなく親にも向けられています。「小学校のPTA総会で呼ばれ、挨拶の大切さの話をさせてもらったんです。すると翌月の活動日、子どもたちの挨拶はいつもより元気があったんです。やはり家庭が変わらないとダメなんだと感じましたよ。地域だけでなく、ベースである家庭も大切なんだってね。」草川さんの夢は続きます。
   
 活動の目的は挨拶を通じて「自分をつくり、仲間をつくり、ふるさとをつくる」こと。この活動を教育の現場に見事に取り込んでいるのが老上中学校です。この活動が中学校にどのような影響を与えたのでしょう。
 「以前は学校全体に健全とは言えない雰囲気が漂っていました。ところが今は学校全体に落ち着きと潤いがあります。学習できる雰囲気ができ、生徒の集中力が高まります。人の話をしっかり聞く、ノートを取る、先生の話を自分なりに考える、すべて人との関係から生まれるんですね。妙な緊張感を持たず、余計な神経を使わなくてよい安心安全な学校の雰囲気が先生と生徒・生徒同士の信頼関係を生みだしてる。こんな当たり前のことで子どもたちの学力は確実に伸びるんです。」と中谷校長は力説します。
 「この当たり前の雰囲気を学校にとり戻された理由の一つに『あいさつ』があるんです。『たかが挨拶、されど挨拶』なんです。」。

生まれた新しい校風

夢街道4  中学生といえば挨拶も照れくさい、はにかむ年頃。そんな中、老上中には新しい校風が根づきつつあります。それは3年生が率先して大きな声で挨拶をすること。部活でも体育祭でもいちばん声が大きいのが3年生。「3年生が率先して『おはよう』と声をかけることで、1・2年生もそのうち素直に挨拶を返すようになります。同時に友だち同士もお互い『おはよう』と掛け合うようになる。対話が自然と始まっているんですね。3年生を見ていると後輩たちに『老中を頼むぞ!』といった気概すら感じます。」と校長先生。
 
 今年の入学式でのできごと。新入生を前に3年生の生徒会長が歓迎のあいさつをするために壇上へ。彼はいきなり「みなさん、こんにちは~」と切り出しました。モゴモゴしてる新入生や保護者に、もう一度「みなさん、こんにちは」と投げかけると、次は会場から大きな声で返事が返ってきたそうです。後に彼にその時のことを聞くと「最初、返事が返ってこなかったので、自分の話を聞いてくれているのか心配だった」とのこと。用意していた原稿を急遽変更してのできごとだったそうです。彼の言葉を聞いて老中の新しい校風ができたことを校長先生は実感したそうです。

たかが挨拶、されど挨拶

夢街道5  この校風は周りの住民をも幸せな気分にさせてくれています。学校に届いたハガキには「数年前に老上に引っ越してきたが、出会う子どもたちが、いつもどこでも挨拶してくれます。とても気持ち良く、このまちに引っ越して来てよかった」と記されていました。地域の住民が中学校を誇りに思うことで子どもたちに自信がつく。子どもが変われば親が変わる。挨拶から始まる対話を大切にしてきた老上のまちづくりは長い時間をかけて今、たくさんの芽を出し始めました。「子どもたちを元気に、そして高齢者も元気に、さらにふるさと(地域)も元気に」が実感できるようになりました。

草川邦章さん
草津市矢橋町1416
電話/ファックス (077) 562-6088

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