RSS通信

まちサポくさつ (公財)草津市コミュニティ事業団

団体インタビュー

「ごめんやで」と言い合える間柄をつくる

NPO法人ディフェンス 宮下千代美さん

まちとのつながり

 今年は3月に歴史的な災害が起こってしまいました。 (略) 事務所は昔ながらの町並みにあります。細い路地、建て込む町内で、今回のような大地震があれば、大変なことになるでしょう。しかし、ここには強いつながりがあります。それは住民だけでなく、私たちのような小さな団体にも届いています。 (略) このまちで活動していて本当に良かったと感謝しています。 (「Defense」2011年12月1日発行編集後記より)

 障害者の自立生活を支援するNPO法人ディフェンスの機関紙からの抜粋です。あの東日本大震災があった2011年の暮れに、どうしても書き記したかったという号の編集後記から引きました。東日本大震災の障害者の心身に与えた大きな影響によって発信された数々のメッセージの最後に記された、まちやまちとのつながりへの感謝の気持ち。その背景には何があるのでしょうか。

あなたたちのような人には…

まちかどの花壇1  草津宿本陣の近く、昔ながらの町並みが今も残る界隈の路地を入るとディフェンスの事務所があります。「ここに事務所を構えて16年になります。ここに落ち着くまで随分と苦労しました。私と車イスの女性が二人であちこちと場所を探しました。今では考えられませんが、当時は多くの駅で、車イスの人は貨物用エレベーターに乗っていた時代です。事務所として貸してほしいとお願いしても、『悪いけど、あなたたちのような人には…』と文字どおり扉を閉められたことだってありました。当時は『自分たちは良いことをしているのだから理解してもらえる』なんて漠然と思っていた分、ショックも大きかったですね。また、障害者が地域で生きる難しさもつくづく感じました。」
 そうして、たどり着いたのが今の場所。こんな苦労が原点となって、活動はもとより自分たち自身も地域で知ってもらう努力をしたと宮下さんは言います。近所の人と出会ったら自分たちから挨拶する、事務所の前はいつも掃除をする、お誘いいただいた地元の行事に参加するなど、ささやかですが当たり前のことを積み重ねてきました。今では、町内会に入り、近所の人が事務所の前にお花を植えてくださったり、折に触れては事務所をのぞいてくださるようになりました。互いを知るためには、まずは自分たちから開いていくことなんですね。

多くの人の顔を

バリアフリー調査1  宮下さんは日ごろ、一人でも多くの人が障害者と出会ったり、話したりするきっかけをつくるように心を砕いています。それをきっかけに、私たちの周りには「障害者」という特別な人ではなく「生活するために支援を必要とする障害のあるAさん」という名前がある「普通の人」の存在に気づいてほしいと。ディフェンスでは社会のしくみがより良くなるよう提言していますが、ただ公の支援制度等を充実させるだけでは、障害者を含むさまざまな人が共に生きるまちにならないとも感じています。
 「私たちが日ごろ、まちでどのような人と出会っているか、そして意識するかで社会が変わってくると思います。地元で防災計画をたてたり、災害マップをつくるときも、どれだけ多く人の顔を思い出しながらつくることができるかが大切だと思うんです。」

バリアフリー調査2  一方で、障害者も積極的にまちに出る、社会に参加することを宮下さんは勧めます。
「障害者の中には、ここで災害があったらあきらめるしかないと言う人もいます。障害者が外に出るのは勇気がいります。介助が必要な人なら気兼ねもあって、なおさらです。でも、障害者もできるだけまちに出て、多くの人と話してほしい。自分はここにいると知ってもらう努力、『ごめんやで』と言いながら言うべきことはきちんと言いあう間柄をつくっていくことが“いざ”という時に命をつないでくれると思います。

ある車イス利用者が町内会の避難訓練に参加したとき、『障害者のトイレはどこですか』と聞いたそうです。すると一人の男性が『あっちにあるで、行ってみよか』と一緒に探してくれ、障害者用トイレの場所を確認することできました。障害者が避難場所でいちばん困るのはトイレだということを、まちの皆さんに伝えておきたかったとか。」

高齢者の経験は図書館

バリアフリー調査3  「バリアフリーやユニバーサルデザインは目に見えるわかりやすいまちづくりですが、その整備には多額のお金も時間もかかります。まずは、まちに暮らす一人ひとりが『お互いさま』と謙虚になってちょっとずつ譲り合う気持ち、『ごめんやで』と言ってお願いできる間柄、こういう人の心のつながりが私たちにできる防災だと思います。高齢者の経験はまるごと生きた図書館といわれます。歳を重ねてこられた分だけ経験や“いざ”というときの知恵もお持ちです。経験や知恵がたくさんあるって、まちにはとても心強いこと。だから子どもたちや若い人たちと交流する機会がたくさんあればいいですね。高齢者だからって出番がないのはもったいない。高齢者も障害者も在住外国人も、一人ひとりの顔を思い浮かべ、互いを気遣い、尊重し合うことこそ災害に強いまちになっていくのではないでしょうか。」と宮下さん。

インタビューを終え事務所を出たとき、プランターに咲く花を見ました。道を行き来する人の目を楽しませ、話のきっかけをつくってくれるこの花は、ディフェンスとまちをつなぐ現れでもあり、「私たちはここにいるよ」と伝えてくれているようでもあり、入るときとは違った表情を見せてくれました。

※NPO法人ディフェンス
障害者及び高齢者が地域で自立した生活を営むための支援を中心に当事者も参画して活動するNPO法人

取材・掲載

コミュニティくさつ106号 2015.9月
「“もしもの備え” ~やってみなけりゃ、わからない。~」より

前のページに戻る