団体インタビュー
種を蒔く。未来を耕す。
バケツで育った稲
「働きづめだった」と振り返る現役時代の小寺さんは、ほとんど地域のことを知りませんでした。定年退職と前後してまちの役員になり、まちの様々な表情を目の当たりにして、まちのこと、そして、そこにはたくさんの素晴らしい人たちが暮らしていることを教えられました。学校は週5日制になり、世間では塾通いの過熱ぶりや子どもを巻き込む物騒なニュースまで流れ出す時代になっていました。
定年、そして自分のまち…。「子どもたちに自分たち大人は何ができるんだろう」漠然と思い始めたころでした、小学校の授業の様子を知ったのは。
5年生になると総合学習で米づくりを学びます。学校では稲がバケツで育てられ、廊下に並べられていました。「これでは理科の観察…」兼業農家でもあった小寺さんはこの光景に違和感を覚えました。「子どもたちに本当の米づくりを知ってもらいたい。野菜だって苗植えから収穫まで体験させてあげたい」
自然とともに生きている
老上は豊かな田園が広がる土地柄です。役員になったことで知り合った仲間や、小学校近くの農家の人たちと協力して立ち上げたのが、老上ふれあい農業合校です。子どもたちのためにと6,000㎡の田畑を農家から借りました。この田畑で現在、1年生はさつまいも、2年生は大根、3年生はじゃがいも、5年生は米づくりで、もみ蒔きから田植え・草取り・稲刈り収穫までを体験します。幼稚園児はレンゲ畑で遊んだり、イチゴを摘む楽しい姿が見られます。
学区内の様々なまちから集まった約20人のメンバーがその間の作物の世話や子どもたちが体験する際のサポートをします。「裸足で田んぼに入り、グニャっとした泥の感触にはしゃいでいる子どもたちの姿を見ているとうれしくなります。廊下に並べたバケツと違い、田んぼや畑にはカエルやヘビも、バッタやトンボまで色々な生き物との出会いがあります。子どもたちは、人も自然とともに生きていることや季節のめぐり、旬の美味しさなど、たくさんのことを肌で感じながら学んでくれます」と小寺さん。
農が育むコミュニティ
子どもたちの学びからスタートした老上ふれあい農業合校ですが、今では大人たちのふれあいにも一役買っています。一坪農園です。住宅地に引っ越してきた人や時間に余裕ができた人の「家庭菜園をやってみたい・花を育ててみたい」という気持ちに応えています。一坪農園を通して自然と触れ合うなかで、自然と会話も生まれてきます。たくさん収穫できた時にはお裾分けや物々交換をしたり、仲良くなって一緒に旅行や食事などに行く人たちもいるとか。ここでは「農」や「土」を通じたコミュニティが深まっています。
農園の利用者だけではありません。ふれあい農業合校のメンバーも互いの技術を教え合って新しい発見をしたり、会話の中からまちの色々なことを知って別のボランティア活動を始めたりと、人と人、人とまちのつながりが広がっています。