団体インタビュー
うどんづくりで故郷づくり
いつかは近所みんなで晩ごはん
「子どもたちが巣立ち、今や夫婦二人で暮らす家がほとんど。そのうち、どちらかが亡くなって独り暮らし。一人の食事なんて味気ないじゃない。それならこの集会所で晩ごはんをつくって、みんなで食べれたなぁ、って考えたりします。人生の最後は近所の皆が寄って、皆で見送る。そんなまちになれたらなぁって、ね。」
働き盛りの20~30代が一斉に入居してきた小野山も早40年。気がつけばみんな60~70代になっていました。「この集会所も昔はほとんど使っていなかったけど、今は月~土曜まで色々なサークル活動で毎日フル稼働。でも活動しているのはほとんどが女性。男性は家で何をしてるのかしらねえ。」ほがらかに笑うのは、小野山麺くいの会の永田さん。そうです。このまちの困りごとの一つが定年後の男性のまちとのつながりづくりでした。
出不精になった男性たち
子育てや学校活動、はたまた井戸端会議と普段から近所同士のつながりをつくっていた女性に比べ、どうも男性は近所づきあいが難しい。定年で出不精となった男性を家から引っ張り出したい…。そんな時、社会福祉協議会の催しで「鳩が森麺の会」に出会いました。「男性たちがね、赤いエプロン着けてうどんをつくっていたの。活き活きしている様子に『これだ』と思って小野山まで教えにきてもらったんです」。こうして「小野山麺くいの会」が生まれたのが平成26年の3月のこと。今では男女9人ずつの18名で活動しています。中には夫婦で参加している人もいますが、誰と誰がご夫婦かわからないほど、みんなが好きなことを言い合い、なんと賑やかなことか。
「現役のころはこのまちのことも、ご近所さんの顔さえわからなかったんです。そんな出不精が今はうどんにはまっています。まさか自分がうどんをつくるなんて思ってもみなかったですね。粉を練るのは結構、力が必要で男性に向いているんです。『365歩のマーチ』なんか歌いながらね、楽しく粉を踏んでいますよ。もっともっと美味しいうどんを追求したい」とは、この前まで出不精だったと自称する丸山さん・中山さん・竹内さん。
今から、元気なうちに
男性がうどんを練る傍ら、女性はダシや具づくり。特にかつおも昆布もたっぷり入れたダシの味は一流と評判です。ここで活躍するのは近所の料理上手な主婦。ダシの取り方からかき揚げの揚げ方のコツまで、ちょっとした料理教室のよう。みんな感心しきりです。うどんは町内の行事で振る舞うほか、依頼があるとデイサービスやイベントなどにも出向きます。3年前からは町内の地域サロンの新年会でもふるまっています。「うどんの麺は一日寝かすことで格段に美味しくなる」と前日から準備を始める麺々、いや面々。いつもはパスタマシンで麺を切りますが、今日は初めて麺切り包丁に挑戦。「こりゃ、きし麺やな。こっちは素麺。みんなに希望を聞かなあかんわ」とみんなで大笑い。掃除機のコードが抜けても、また大笑い。とにかく笑い声が絶えません。
うどんが振る舞われる地域サロンの新年会の準備中のこと。黒板にチョークで名曲「故郷」の歌詞と長野県の地図。思わずシャッターを切ってると70歳代の男性が話しかけてくれました。「私はね、長野県の小布施村ってとこの出身なんですよ。隣町には“故郷”や“朧月夜”を作詞した高野辰之がいます。私もね、♪こころざしを はたして いつの日にか 帰らん♪のように、いつか故郷の長野に帰るつもりでした。でもね、もうこの小野山で骨をうずめることに決めましたよ。長野の家もないしね。今日はみんなで“故郷”を歌うつもりなんですよ」。
さあ、うどんができたようです。食べましょう、歌いましょう、みんなで。
小野山麺くいの会
中山晃伸さん 丸山哲夫さん 竹内幸雄さん 永田桂子さん 竹内茂子さん 岡本みつ江さん 生田里美さんにインタビュー