団体インタビュー
銀色の波 ~北山田ビニールハウス群の守人たち~
失敗から学ぶ
横江さんの自宅は敏和さんで4代目となる専業農家。現在、30棟のビニールハウスで大根・メロン・ネギ・水菜・壬生菜・小カブラ・ホウレンソウを栽培しています。今は夏に向けて出荷するメロンの作業に追われます。
敏和さんは地元の高校を出て県立農業大学校で学び、本格的に農業を始めたのが20歳のとき。今年20年目となるベテランです。幼いころから土に向き合う両親の背中を見て、「いずれ自分も」と決めていました。学校では授業や本から知識を得ましたが、その通りにいかないことを実践から学んだと横江さんは言います。「簡単そうに見えて何を作るにしても難しい。天候や気温とも相談しないといけない農業、土が話しかけてくれるわけでもないので失敗もします。また、その失敗がないと新たな学びもないのが、これまた農業です。油断も手抜きも禁物です。」39歳、いやはや頭が下がります。
天候?ビニールハウスだから関係ないのでは?という素人質問にも横江さんは丁寧です。「メロンが良く育つように、今日は余分な芽や花を摘む作業をしています。この時期、毎日でもしたい作業ですが、雨の日はしません。雨になると雑菌が入りやすくなるんです。琵琶湖に近いハウスなら、大雨になると湖の水位が上がってハウスに水が溜まってしまい、野菜が被害を受けることもあるんです。それと夏ですね。夏場ならハウスの中は50℃くらいまで上がってしまう。暑すぎても作物はダメ。温暖化でしょうか。夏場は野菜がつくりにくい気がします。」
土と向き合う
なるほど、ビニールハウスといっても天候や気温は影響するようです。それにしても、これだけの品種の野菜を育てるにはさぞや苦労が絶えないことでしょう。「作物の栄養管理と病気を防ぐため記録をつけています。今日した作業、播種日も収穫日も失敗したことも毎日書き留めておきます。過去の記録が次の野菜づくりにつながります。特に土づくりにはこだわりますね。元気な野菜をつくるには土壌がしっかりしていないとできません。土壌検査をして野菜の性質も考えながら、適した土づくりに集中します。大変ではありますが、こうして色々な野菜をつくることは楽しくもあります。これが終わったら次にはあれを準備して、と播種から収穫までを他の野菜と重ならないように計算しています。もちろん計算どおりにいくことは稀ですが、これも農業の面白さ。納得のいく野菜づくりができたときはハウス一面が美しい。充実感でいっぱいになります。
つくること。つなぐこと。
あの光の波をつくる北山田のビニールハウスは2000棟、西日本でも有数の産地を誇ります。横江さんは言います。「農家の高齢化で悩まれている地域も聞きますが、北山田はまだ比較的、若い人が就農してくれている方です。30~40歳代が25人くらい、20歳代も5人くらいいます。私のように学校を出てすぐ継ぐ者もいれば、Uターン組も。子どもの時分から一緒の学校に通っていたから、気心も知れています。もう卒業しましたがJAの草津市農業後継者クラブにも入っていました。こうした同年代の横のつながりは大切にしています。時々、息抜きで一緒に食事に行っては、結局、農業の話をしていますね。栽培の相談をしたりね。そりゃ愚痴なんかもありますけど。」
若い農業者が多い北山田といっても、高齢化は着実に進んでいます。「この辺りは市街化調整区域なので農地が宅地に変わることはありませんが、あと5年、10年もすれば耕作放棄地ができてくるかもしれません。ビニールハウスが放棄されると草が生い茂り、害虫も出てきます。近辺の畑に虫が移って病気にもなります。余裕のある農家にやってもらったり、新しくやってみようと思う人を募ったり、とにかく“引き継いでいく大切さ”が今の私たちに問われている気がします。」