団体インタビュー
“よ~い、スタート”……“カット!” まちの映画、ただいま撮影中。
まちの宝
サァ行こか。
あ~、おさえてサンヤーレ
サンヤーレ サンヤレ
よねこ~ よねこ~
よねこが あねこ~
5月3日、矢倉の旧東海道筋を立木神社まで練り歩くサンヤレ踊り(国選択無形民俗文化財)が汗ばむ陽気の中、厳かに執り行われました。たくさんの見物客の中にビデオカメラやスタンドマイク、手づくりのレフ版を持ち歩く一行。矢倉地域文化継承プロジェクトの皆さんです。
映画は矢倉で今も続く春のサンヤレ踊りと秋の草木祭(県選択無形民俗文化財)が居住組によって受け継がれてきた歴史を祖父から孫へと伝えていく物語。ドキュメンタリーとドラマを組み合わせた構成です。シナリオは監督を務める河崎さんが、シナリオ講座で学びながら書きました。
どうやって伝える
地域の文化を継承していく大切さを映画にして残すユニークな取り組み、スタートは河崎さんの経験からでした。実は河崎さん、これまでもいくつかの地域で地元の高齢者から昔の暮らしぶりを聞き、絵として残していく取り組みに参加していました。その度に絵と言葉で伝えることの限界も感じていたとか。
「その時、どんな風景が流れ、どんな音が聞こえ、どんな表情をしてたのか。もっと伝える方法はないだろうか。」そんなことを思い始めていたころに、シナリオ講座があったのです。これが縁でプロの映画監督との出会いもあり、決心しました。そうだ、映画をつくろう。
「残すための手法はいくつかあります。中でも映画なら、クローズアップで微妙な表情を表現できる。複雑に重なり合う周囲の音や時の流れも、効果的に表現することもできる。私たちが伝えたいことを伝える手法としては最も魅力的でした」
重なる気持ち
決めたら即、行動。地元の人に熱く語りかけ、梅岡さんを始め13人の仲間が集まりました。ほぼ全員が矢倉在住、もちろん映画づくりの経験者はいません。
「矢倉に来て10年。サンヤレ踊りは私の団地も歩くので見ていましたが、踊りの意味も居住組さんが代々継承されていたことも知りませんでした。素晴らしいと思いました。私みたいな人は結構いるもの。ぜひ、加わりたいと思いました。」と梅岡さん。
今あるのは仲間とシナリオだけ。そこで機材と撮影費用は地元の矢倉学区未来のまち協議会がバックアップしてくれました。また、作品としての質を保つため、主要キャストは芝居のレッスンを受けたことのある市民を草津アートセンター(クレアホール)に紹介してもらいました。
地域文化を映画で残す。
この強い思いに吸い込まれるように、次々と人や団体が名乗りを上げてくれました。
「思いを一番ぶつけたのは居住組さんです」河崎さんが最も心を砕いたのは居住組さんに理解いただき、協力してもらうこと。居住組なくして成り立たない映画です。
とはいうものの、サンヤレ踊りも草木祭りも代々継がれ守られてきた神事。祈りの形であって見世物ではありません。
河崎さんは居住組の寄合いに足しげく通い、オコナイの手伝いをしながら、根気よく理解と協力を得るための努力を重ねました。こうして一年、双方の思いが溶け合いました。ついに冒頭のクランクインを迎えたのです。
はい、OK!
「よ~い、スタート」「カット!」。撮影順調と言いたいところですが、問題にぶつかってはクリアしていくという連続です。
最も苦労するのは映画をつくるための段取りや進め方、そして何より演出やカメラワーク、音響、タイムキーパーなど映画づくりに必要な技術。なにせ、全員が映画初心者です。
そこで市やNPOの仲介で立命館大学の映像専門家や映画会社に技術指導のサポートをもらえるようになり、大いに助かりました。それでも映画づくりの大変さはメンバーの想像以上です。
ひとつのシーンを3~4日かけて撮り、その編集作業にまた1か月。まとめてしまうと、なんとたった4分。わずかなシーンに膨大な時間がかかることを知りました。撮影が延び出演する子どもがぐずり出したり、集中力をなくしたり…その都度、スタッフがなだめ、気をそらしたりの連続です。
また、ひとつのシーンの連続性も難しいところ。数か月かける撮影もシーンとしては連続しているので、次の撮影日もまったく同じ服装でないといけません。首にかけた手ぬぐいから、靴下、髪の留め方まで一つひとつ合わせる必要があります。夏休みを挟むと、急に子どもが日焼けしてたり…なんてこともあるわけです。そのため「撮影の記録」がとても大切になります。
それでも、みんな楽しく撮影しています。映画の専門用語もずいぶんと覚えました。「監督の“スタート”のかけ声でチーム全員が集中します。モニターを確認し“OK”が出た瞬間、全員の笑顔がこぼれます。この瞬間がたまらなく気持ちいい」と梅岡さん。