団体インタビュー
フツーに暮らすための魔法の道具、自助具。
フツーにするための道具
楽しむことをあきらめない
なにせオーダーメイド。利用者一人ひとりの不自由な部位や具合、思い、事情だってちがうので、丁寧に話を聞きながら製作していきます。ある時、片腕を失った40代の女性から依頼を受けました。その女性の楽しみはガーデニング。でも片手の彼女は虫除けのアームカバーをつけられません。あなたなら、どんな方法を考えますか。
また、ある時は右手の指が不自由な老人会長さんからの依頼です。「老人会の写真を撮りたいが私は右手が動かない。左利き用のデジタルカメラはどこにも売ってない。左手でシャッターを押せないものか」。なかなかの難題です。α工房では100円ショップで購入した化粧用バサミを加工して、見事左手でシャッターを押せる道具を作りました。
こうして、α工房は一人ひとりの「困りごと」を、丹念に解決していくのです。それはあたかも魔法のよう。片手でも靴下を履いたり脱いだりできます。リウマチを患った料理好きの女性が落とした鍋蓋を、屈まなくても拾えます。手の力が弱くて箸を上手く扱えない人も今や自宅で、旅行先で、My箸を使って食事を楽しみます。「一人一品」です。
はじめてのボランティア
代表の扇さんは元々、民間企業で研究開発の仕事に長く就いていました。定年を迎え「何か社会に恩返ししたい」と、当時住んでいたまちのボランティアセンターに登録。そこで、同じくボランティアをしていた大工さんと一緒に集会所のトイレを和式から洋式に変
えたり、玄関にスロープをつけるなどの活動をしたのが、今に活かされているとか。
「最初の活動は、ある作業所さんからの依頼でした。障がい者さんがジャガイモの皮をむく作業場ですが、テントだけの簡易なもので冬は手もかじかむ気の毒な環境でした。そこで大工さんと一緒に作業小屋を建てました。電気や水道を引くのは私の担当。作業所の職員さんやそこで働く障がい者さんに喜んでもらえたのが本当に嬉しくて」
広がる自助具
平成12年に介護保険制度が施行され、数年後には自助具も1割負担で買えるようになると、市販のものが出回るようになりました。片手爪切り、ソックスエイド、ばね箸などの汎用性の高い自助具が、大量生産され徐々に依頼件数が減り始めます。
逆に時間の余裕ができたことから、〝認知症予防〟にと、ビー玉を使ったボードゲームを考案したところ、高齢者の間に口コミで広がり、10年間でなんと3000台となるヒット商品に。一時は製作が追いつかない時期もありました。商品と言っても、ボランティア団体なので、もらうのはほぼ材料費と必要経費だけ。
「人は助け合わないと生きていけません。地縁・血縁・仕事でできた職縁など社会には色々な人のつながりがありますが、近年こういったつながりが薄れてきていると思います。好きなことで集まって活動する『好縁(こうえん)』も人のつながり、ボランティアの原点だと思っています。『ありがとう』と感謝してもらえるのが何
にも代えがたい喜びです。私たち自身が好きなことをさせてもらっているのに。むしろ私たちが感謝したいですね」
取材の日、α工房では片手でポットからお湯を注いでも跳ね返りがないよう、湯飲みやカップを置くための小さな台を作っていまし
た。名づけて「プチテーブル」。カップ麺も置くことができる優れものです。ケガをしないよう、無粋な音がしないよう、そして飽きがこないよう、おしゃれで美しい布地が貼ってあります。フツーに使うためのα工房ならではの心配りでしょうか。
扇さんはある日、小5の女の子から「福祉ってなあに?」と聞かれたことがあったそうです。それからというもの「福祉」は扇さんの命題となりました。扇さんは本で調べたり、実際の活動を通じて「福祉」について考えるようになりました。ボランティアとは、福祉とは。
言葉で答えるのは難しいですが、α工房の活動にその解が垣間見えるような気がします。