団体インタビュー
大人になったあなたに、絵本を届けます。
暮らしに絵本を
「暮らしに絵本時間」では、〝気分転換〟や〝ときめくもの〟など毎回テーマを決め、それに沿った絵本を6?7冊紹介します。参加者の定員は8名。少なめに思われるかもしれませんが、これが輪になって絵本が見える心地よい空間となります。
8名といえども、見知らぬ大人同士が集まれば多少はキンチョーするもの。澤村さんは、まずは一冊読んでから、その絵本を題材とした質問、例えば「私が好きなパン」といったお題で参加者に自己紹介してもらいます。自己紹介も名前でなく、その場だけのニックネームにするなど、みんなで楽しい場を創っていく工夫はさすがです。
場が和んだら、一冊ごとに参加者同士で感じたことや気づいたことなどをお話したり、澤村さんが作家や作品にまつわるエピソードを紹介したり。参加者は一人ひとりの感想や気づき、視点が自分とはちがうことに驚きます。たとえ自分と感想がちがっても、否定することなく参加者みんなが笑顔で受け止めていくことで、作品への理解はさらに深まり、見方や楽しみ方が広がっていきます。
「暮らしに絵本時間はいつも、心地よい空間、絵本好きの人たちがつながる場となること、を心がけています。絵本を読むだけで、聞いている人は自然と笑顔になってくれます。私もその笑顔をもらって幸せな気分になります。大人になって絵本を読んでもらうという経験、一度試してみませんか」と澤村さん。
一生、楽しむ
でも、どうして大人に絵本なのでしょう。「もちろん、子どもたちに良い絵本を届ける活動もしています。でも、小さな子どもが一人で本屋さんや図書館には行くことは難しい。そう、やっぱり大人がその絵本の良さを知らないと、子どもたちには届かない。それでこの活動を始めました」。なるほど、です。
それに絵本は読む人の年代や経験によって見方も変わるようです。
「たとえば『はじめてのおつかい』*という絵本があります。長く愛されてきた絵本です。子どもの時なら主人公の〝みいちゃん〟になりきって読むことが多いのですが、大人になって読み返すと、お母さんやお店の方など、子どもとはちがった目線になっていることに気づきます。あるいは登場する店の様子、公衆電話や車・スポーツカー、〝大福50円〟の貼紙などに当時を懐かしんだり、再発見を楽しんだり。絵本って、一生楽しめるんですよ」
時代を超えても色あせず、読む人の立場や経験によって、伝わ
るものや感じ方も変わっていくわけですね。
絵本の力
家には約500冊の絵本棚、娘さんが大学生になった今でも一緒に図書館の絵本コーナーに通うという澤村さん。大人と絵本の関係について、もう少し聞きたくなりました。
「大人になると何かと忙しくて、ゆっくり本を読む時間もままならないという話をよく聞きます。本離れしている人も多いように思います。そのような人にこそ絵本をおすすめしたい。絵本なら読むのは、だいたい5分くらい。その短い時間に人生の教訓や教育的・哲学的な話、ためになる話などがギュッと詰まっています。それは大人になっても、いや大人だからこそ、ハッとさせられることも多くあります。こんな短時間で大の大人が引き込まれるのは、絵本そのものに力があるからだと思うんです。だから、大人にこそ開いてほしい、読んでみて欲しいと思うんです」
絵本の楽しさを伝える澤村さんは、若いパパやママから絵本の上手な読み方を質問されるとか。そんなとき「上手に読もうなんて思わないでください。上手に読む必要もありません。読んでいる時間、子どもと触れ合っている時間に意味があるのだから。子どもはきっと、その時間そのものを楽しんでいますよ」と答えるんだとか。