団体インタビュー
まちの明日へ一手
将棋の強豪校
土曜日、老上まちづくりセンターに次々と子どもたちが駆け込んできましたあれよあれよという間に 20人もの小学生。この歳の男の子たちが集まるともう、喧騒に近いくらいの賑やかさ。いつしか各々ペアをつくり、将棋を指し始めました。賑やかな中にも駒を見つめる表情は真剣。パチッ、 パチッ。駒の音がなんとも心地よいリズムです。
湖国子ども将棋教室「将太郎クラブ」は立命館大学(BKC)将棋研究会の学生たちが中心となって運営するユニークな将棋教室。草津市民には馴染みの深い立命館大学ですが、実は何度も大学日本一に輝く将棋の強豪校であることを知る人は少ないかもしれません。大学のサークルがまちのイベントや催しに呼ばれるのはよく耳にしますが、大学の部やサークルが主になって地域で活動するのは珍しい。全国屈指の部となればなおさらです。
なるほど、そうくるか。
日本一の意味
クラブの立ち上げは2016年。きっかけは老上学区であった夏休みの子ども向けイベントでした。将棋研究会で将棋体験コーナーを出した時、当時まちづくり協議会の職員だった岸本さんから「ここで子どもの将棋クラブをしないか」と声をかけられたのだとか。
「将棋研究会でも、〝自分たちの将棋をもっと地域で活かせないか〟と考えていたタイミングでした。立命館大学杯(将棋大会)も、そんな思いから始めたものです」と代表の山本将太郎さん。
ん!?カンの鋭い人なら気づいたかも。そう、「将太郎クラブ」は山本将太郎さんの名前からつけられました。声をかけた岸本さんは「クラブの名前はすぐに決まりました。将棋の『将』だし、響きも親しみやすい。何より山本君たちの将棋に対する考え
方や子どもたちと向き合う姿勢に感じ入るものがありました。強豪校で忙しいだろうけど、この子たちなら一緒にやってくれると思いました」と当時を振り返ります。
とは言っても、なにせ全国屈指の強豪校です。地元で子どもたちと将棋を指す時間を自分たちの精進や互いの切磋琢磨に充てなくてもいいのでしょうか。
「私たち将棋研究会の目標は大学日本一です。でもそれは優勝実績だけが全てじゃありません。地元の人たちからも親しまれ、私たちを通じて将棋を知ったり好きになったりと将棋そのものの普及に貢献できてこそ本当の日本一になれるんだと思っています」と山本さん。その若さで、脱帽です。
一手一手がコミュニケーション
これまで将棋と真摯に向き合ってきた山本さん。「将棋を始めたのは小1から。父と祖父から教わりました。どんどんのめりこんで小3からは道場に通いました。中学生になると本気でプロ棋士を目指しましたが、高校に入ったころにはその壁の高さを自覚して将棋と距離をおきました」
でも大学で将棋研究会に入ってから将棋の見方が変わりました。それは将棋を通じて人とコミュニケーションをとる楽しさを知ったこと。岸本さんに出会えたのも、こうして地元の子どもたちと触れ合えるのも将棋があったからこそ。大学の中だけでは生まれなかった出会いがお互いに響き合って、新たに気づくことがたくさんあります」
なるほど。将太郎クラブの子どもたちへの思いも聞いてみました。「将棋というと〝孤独で寡黙な闘い〟といったイメージを持つ人もいます。でも、対局は一手一手、相手とのコミュニケーションなんです。だから将太郎クラブのみんなにも、将棋を通じて色々な人とコミュニケーションをとってもらいたい。そして、なんでもいいから何か自分が熱中できることを見つけてもらえたら、と思っています。それが将棋なら、なおさら嬉しいですね」
現在、日本には約150人のプロ棋士がいますが、滋賀からはまだ輩出していないとか。
「大学生×地域×子ども」の将太郎クラブから将来プロ棋士が生まれるかも知れません。 将太郎クラブが、ここ草津で指す次の一手、今から楽しみです。